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技術情報

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最新機器を用いた照明設備の最適配置による省エネ

月刊省エネルギー 2020年3月号寄稿

1.工場等におけるこれまでの照明のレイアウトと問題点

一般的な工場等における高天井照明は、かつては水銀灯が主流だったが、水俣条約の採択以降LED化が進んでいる。水銀灯時代の配線をそのまま活かすケースが多く、導入されるのは水銀灯と同等の光量をもつ大型のLED照明が多い。レイアウトとしては、5m~10mおきに1灯が一般的である。大型LED照明は、2010年代に普及し始めて以降、少ない消費電力でより明るく、という省エネ化を遂げてきている。また、弊社が提案する人感センサー付きLEDも、省エネに大きく寄与してきた。

しかしながら、省エネ効果の高い大型LED照明にも弱点がある。それは「均斉度」がよくないこと、すなわち「照度ムラ」である。発光が強ければ強いほど、設置する間隔を開けられるため、設置台数を少なくできる。しかしそうすることにより、照明直下の明るいところと、光の届きにくい離れたところの照度ムラを生んでしまう。「均斉度」は照度ムラを表す数値で、最少照度÷平均照度で求め、数値が高い方がムラのないことを表す。JIS等で、工場における均斉度の基準は定められていないが、できるだけ高いほうが作業者の目の負担にならない。

この大型LED照明の弱点が、顕著に出てしまう場面がある。それは現場のレイアウトが変わってしまうことだ。現場の使用用途が変わって、部品や完成品を置く棚等の設置場所が変わることがあるだろう。図1と2を比較して見て頂きたい。どちらも天井6m/広さ32m×30mの室内の照度分布図である。この部屋に全光束16000lmの大型LEDを18台設置すると、図1では、床面の平均照度294lux、均斉度0.35である。しかしながら、ここに積載物を含め天井高さ5mになる荷物ラックが、3.5m間隔で設置されると、ラック間が真っ暗になってしまう。それを3D化して真上から見たものが図2である。均斉度は0.35から0.08に落ちているのが見て取れる。

大型LED照明は、強い光を少ない電力で発光させるため、非常に効率が良い省エネ照明である。しかも配線工事が最小限で済む。しかしながら、照度ムラがでることと、現場のレイアウト替えに弱いのである。

 

2.高天井用LEDセンサーライトを用いた均斉度の向上

アイキュージャパン株式会社は、マレーシアに本社を置く赤外線センサーメーカー「IQ Group Holdings」の日本法人で、日本国内におけるマーケティングと販売を担当している。弊社の提案する高天井用LEDセンサーライト「Lumiqs」は、人感センサーで必要なときに必要な明るさで照らし、省エネすることを提案している。そして、現場で使いやすいセンサーライトであることを目標においている。2015年発売当初は、大型LED照明1機種だけの商品構成だった。水銀灯のソケットを活かす丸形タイプ(図3)である。そのため、前述の「照度ムラ」や「現場のレイアウト替えに弱い」という問題に直面した。

この問題への答えとして発売したのが、HBシリーズである(図4)。2017年の発売だ。HBシリーズは、発光面を4つに分けて本体の外側に配置。それぞれのランプユニットは、外側に30度まで開くことができる。これによる効果を見ていただきたい。図5はランプユニットを開く前、図6は30度外側に開いた場合である。図6の方が、灯りが拡散する分わずかに平均照度が落ちているが、均斉度が0.31から0.4に向上している。現場にラックが設置された場合の比較が図7と8である。ランプユニットを開いている図8の均斉度が、わずかではあるが0.09から0.12に向上している。HBシリーズのランプユニットは手動である。そのため、設置後に角度を変える場合は、高所作業車を用いる必要がある。しかしながら、照明の位置を配線ごと変える工事より手軽であるという理由から、弊社では売れ筋の製品となっている。この場合、センサー付きで省エネになることが、採用の大きな前提条件となっているのはもちろんのことである。

大型LED照明が「現場のレイアウト替えに弱い」という問題は、HBシリーズの提案だけでは根本解決しない。前掲の図7と8の比較でも、均斉度の向上は見られるものの、ラックで影になる場所の照度は依然として低い。最新の物流施設では、この問題を照明の種類を変えることにより解決している。それは、水銀灯タイプの大型LED照明ではなく、蛍光灯タイプのLEDベースライトを採用することである。光源を天井にまんべんなく置いて部屋全体の均斉度を上げれば、現場のレイアウトが変わっても、その影響を最小限に抑えられるという考えである。照明の下のスペースをどのように仕切ったとしても、真っ暗になってしまうリスクを最小限にできるのだ。弊社もこの考えに大いに感じるところがあり、物流不動産の所有・運営・開発のリーディングカンパニーのプロロジスと、2018年にセンサー付きLEDベースライトBL-640(図9)を共同開発した。高出力32W蛍光灯2灯分の明るさと同等のベースライトで、センサー効果によって入居者の省エネを支援する製品だ。2018年度の省エネ大賞(製品・ビジネスモデル部門)を受賞している。均斉度は、図10をご覧いただきたい。HBシリーズの図6と比較すると、平均照度は同程度であるが、均斉度が0.40から0.53に向上している。また、ラックを配置した場合も、同様に0.12から0.2に向上している(図8と図11比較)。そのためBL-640は、省エネと均斉度を求める現場より好評を得ている。

3.導入事業所における省エネ効果及び作業環境改善について

このBL-640は、プロロジスの物流施設「プロロジスパークつくば1-A」に2600台が導入されている。新築物件のため、導入前と導入後の省エネ数値を単純比較することはできないが、もし蛍光灯を使っていた場合と比べると、年間で1,142,731kWhの削減が見込まれる。これは、別の稼働中の同社施設で「点灯率」を測定した結果から算出した。「点灯率」とは、センサー検知して照明が点灯する時間を稼働時間で割ったもので、センサーライトを導入した場合の経済シミュレーションの基になる。弊社オリジナルの測定器「モニタリングセンサー(図12)で測定が可能。同社の稼働中施設で測定した点灯率は23.1%。稼働時間の約8割を省エネできるのである。

センサー検知していないとき、すなわち人がいない待機時において、Lumiqs製品は、照明の明るさを「消灯」もしくは「ほんのり点灯」に、リモコンで設定することができる(図13)。消灯は明るさ0%、ほんのり点灯は明るさ20%で、補助灯の役割を果たす。省エネを追求するなら、待機時明るさ0%の消灯がベストだ。しかしながら、フォークリフトが頻繁に通るなど、現場の用途によっては待機時0%では危険な場面もある。そのため安全確保を目的に、通路をほんのり点灯、保管場所を消灯に設定する現場は多い。前述のプロロジスパークつくば1-Aも、通路をほんのり点灯、保管場所を消灯で設定中である。

もしかしたら、点灯時と待機時の明るさの差は、均斉度を損なうのではないか? あるいは作業者の目に負担になるのではないか? と疑問に思う方もいるかもしれない。その点、心配はない。Lumiqsは、高感度の人感センサーを搭載している。BL-640なら天井6mに設置の場合、照明の手前3m付近で検知点灯する。HBシリーズなら、その倍の6mだ。作業者が通ってきた部分を含めて、常に作業者の周囲は点灯して照度が保たれる。そのためほんのり点灯は、省エネと現場の安全を両立するLumiqsの人気機能なのである。

この調光機能を、2019年にシステム化した。「メッシュネットワークシステム」という。BL-640に通信機能をもたせて、タブレットで一括管理できる照明管理システムで、プロロジスとの共同開発品である。均斉度を維持しやすいベースライトタイプの照明を、現場レイアウトに合わせて細かく調光することで、「照度ムラ」と「現場のレイアウト替え」という2つの問題を解決し、かつ省エネを追求できる。まさにこの記事のテーマ「最新機器を用いた照明設備の最適配置による省エネ」が実現できるのだ。

具体的には、リモコンタイプの明るさは点灯時100%、ほんのり点灯時20%で固定だが、システムでは点灯時・待機時ともに明るさを10%刻みで調節できる。また、リモコンタイプは待機状態に入るまでの点灯時間を30秒固定としているが、システムならこれを10秒にまで短縮することができる。早く待機状態に入る分、省エネになるのである。簡単に行える照明のグルーピング機能は、省エネと現場のレイアウト替えに対応する。例えば、レイアウト替えで、そもそも照明が必要なくなってしまった場所は、その場所の照明をグループ化して常時0%に設定することができる。反対に伝票置き場など、常時人がいる場所に変わった場合は、その部分をグルーピングして「センサーなし」に切り替えることもできる。そこまで明るさが必要なければ、80%~90%に減光する省エネ設定も可能だ。

これだけではない。メッシュネットワークシステムならではの、ユニークな特長が2つある。1つ目は、省エネできそうな場所を探せる機能「動線管理」だ。現場の照明地図に、人通りの多い少ないを「ヒートマップ」にして重ねて表示する(図14)。人通りの少ない場所は、省エネできる可能性が高い。なぜなら、人がいなければ照明は必要ないからだ。該当箇所の照明をグループ化し、明るさを抑えた設定にする。そして、待機状態に入るまでの点灯時間も短くしておけば、かんたんに省エネ設定が完了するのだ。特長の2つ目は、これら設定を施して、実際どれくらい省エネになっているのか、確認することができる機能「消費電力確認」だ。各種設定を施さない場合と、施した場合の消費電力をグラフで比較できる(図15)。この2つの機能を支えるのが、センサー検知データだ。検知率を「動線管理」に、照明の点灯率を「消費電力管理」に活かしている。照明の人感センサーを、照明のオンオフ以外に活用するのは、Lumiqsのメッシュネットワークシステムが国内初である。

本システムは、プロロジスパークつくば1-Bに導入された。リモコンタイプのBL-640を導入した、つくば1-Aに隣接する物流施設である。

想像してみて欲しい。1フロア900台、全館で2600台の照明が、タブレット1台で一斉に点いたり消えたりする様子を。そして、もしご自身の現場に導入されたなら……

つくば1-Bで撮影した製品動画を以下にアップしている。ご参考頂ければ幸いである。https://www.youtube.com/watch?v=WgwtvITJx6M&t=30s

<終わり>

執筆者プロフィール

谷口季代子
アイキュージャパン株式会社 ルミックス営業部 マネージャー
2016年9月入社。Lumiqsの営業マンとして営業活動を行う傍ら、技術資料の執筆および講演を行う。2019年よりマーケティングを専任担当。