センサを活用したエネルギー管理の基本
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月刊「省エネルギー」 2017年9月号 寄稿
1.弊社概要とセンサーライト
アイキュージャパン株式会社は、マレーシアに本社を置く赤外線センサーメーカー「IQ Group Holdings」の日本法人で、日本国内に於けるマーケティングと販売を担当している。IQ Group は創業以来、赤外線センサーおよび一般家庭向けのセンサーライトの他、工場・倉庫向けの高天井用センサーライトを開発・製造してきた。我が国におけるセンサーライトは、1990 年代に登場した。玄関や駐車場等、いわゆる一般家庭向けが主な用途で、光源はハロゲンランプ、電源はAC100V あるいは乾電池が主流だった。2000 年代初めに白色LED が低価格になったため普及し、同程度の光束を発生する割に消費電力が少ないため、ソーラーパネルと充電器を電源する商品群が加わってきた。LED が普及するにつれて、センサーライトはオフィスや公共施設のトイレや廊下など、商用施設でも利用されるようになってきた。2010 年代になると、LED の特性改良(変換効率向上)により更に利用が盛んになり、工場や倉庫等の高天井施設でも使用できるタイプが登場してきている。自動点灯・消灯による「便利さ」に併せて「省エネ性」が、工場や倉庫等の高天井施設での、センサーライト普及の理由である。
2.人感センサーの仕組み
① アクティブセンサーとパッシブセンサー
光学式の人感センサーは、大きく分けて2 つのタイプがある。近赤外線を利用するアクティブセンサーと、遠赤外線を利用するパッシブセンサーである。センサーライトにはセンシング機能に必要な消費電力が微小である利点から主にパッシブセンサーが用いられている。双方の違いと用途を表にまとめる。
アクティブセンサー | パッシブセンサー | |
呼称 | 赤外線能動センサー ビームセンサー |
赤外線受動センサー 人感センサー |
動作原理 | 赤外線を検知エリアに投光し、その反射が遮られたことにより物体を検出する | 検知エリア内に進入した物体が放射する赤外線を受光することにより人などを検知する |
利用する赤外線 | 近赤外線 | 遠赤外線(熱線) |
構造 | 赤外線投光部と受光部から構成される | 赤外線受光部のみ |
検出対象 | 赤外線を遮るものすべて | 人等、熱源を有するもの |
用途 | 自動ドア 、エスカレータ | 防犯センサー、センサーライト |
消費電力 | 小 | 微小 |
検知範囲 | 小 | 広 |
検知範囲の精度 | 高、ただし相互干渉による誤動作あり | 低、相互干渉による誤動作なし |
② パッシブセンサーの動作原理
センサーライトに用いられるパッシブセンサーの動作原理は、検知エリアの背景温度とそこを移動する人等の表面温度との差を、遠赤外線エネルギーの変化として焦電素子で検出し、増幅、フィルター及び弁別等の処理を経て信号出力としている。
以下に、用語の解説を簡単にまとめる
(ア)遠赤外線
赤外線のうち、波長が4~1,000 ㎛程度の光線を遠赤外線と呼ぶ。パッシブセンサーにおいては、ゲルマニゥムフィルターで7~14 ㎛の光を受光するようにしている。遠赤外線は、建築物の材料(木材・金属・ガラス等)を透過しないが、一見不透明なポリエチレン樹脂をよく透過する。そのため、パッシブセンサーに用いられる集光レンズ(フレネルレンズ等)は、ポチエチレン樹脂が多く用いられる。
(イ)焦電素子
物質を電気の通りやすさで分類すると、良導体、半導体、絶縁体となる。絶縁体のうち、電圧をかけたとき個々の粒子間で正負の電荷に偏りが生じ、電圧を外した時に逆の方向に電気が流れるものを誘電体という。誘電体のうち、電圧をかけなくても自然の状態で正負の電荷の中心が偏っている(自発分極)もので、力を加えると収縮して電荷の中心がずれ、電気が流れるものを圧電体という。例えば、ガスレンジ等の着火装置や、ガラス破壊センサーに用いられる。圧電体のうち、温度変化による膨張・収縮で自発分極の大きさが変化し、電気が流れる現象を焦電効果、そう働くものを焦電体という。焦電体に電極を貼り、電流として取り出すことができるのが焦電素子である。パッシブセンサーでは、床などの背景や人体の表面から放射される電磁波(遠赤外線)を集光レンズで受け、フィルターでおよそ7~14 ㎛の光だけに絞り、遠赤外線を受けた焦電体が輻射熱を発生する。その熱の変化で焦電体が膨張・収縮し、焦電素子が電気を発生させ、増幅器、処理回路を経て検知信号としている。
パッシブセンサーは、電磁波をほとんど放射しない気体については、その温度変化を直接検知しないが、隙間風や冷暖房の風により検知する物体の表面温度が変化した場合、これを検知してしまう。これら自然に発生する温度変化での誤動作を避けるため、二つの電極をもつツイン焦電素子が用いられることが多い。電極対は正負逆向きの極性をもって接続されるので、両者に同時に遠赤外線が当たると、電圧が打ち消しあって出力が得られない。ところが、人体の移動等により遠赤外線量に偏りが発生すると出力が得られる。すなわち、ツイン焦電素子を用いることで、検知物体の表面温度が変化しても、物体が移動しなければ誤動作しないのである。
センサーライトは、この検知信号を電源部が受けて自動点灯し、一定時間内に検知信号を受けない場合、自動消灯する。
③ パッシブセンサーの感度
パッシブセンサーの感度は、背景温度と検知物体の「温度差」、センサーから物体までの「検知距離」、検知物体が検知エリアに掛かる「大きさ」と物体の「移動速度」で決まる。パッシブセンサーを人感センサーに用いる場合、センサー用途が人であることから、「移動速度」を人の歩行速度(0.6m/秒)、「大きさ」を人体とし、「検知距離」を商品の仕様から規定することで感度を設定する。検知「温度差」を小さくすると感度が上がり、検知「温度差」を大きくすると感度が下がる。しかしながら感度を上げ過ぎると、自然に発生する温度変化や、無線機器等が発する電波による誤作動が起きやすくなる。一般に感度=検知「温度差」で表現されることが多いが、これはあくまで便宜的なものであり、用途に応じて、検知エリアの数と形状、増幅器の増幅度・周波数特性、マイクロプロセッサでの検出アルゴリズムの工夫等で最適な特性に仕上げることが求められる。
3.高天井照明器具へのパッシブセンサー応用
センサー・一体型の高天井照明器具の場合、天井から床面に向けてパッシブセンサーを設置することになるが、その際、検知対象の人体は肩から上部分だけである。そして天井から床面まで4m~10m程度の距離がある。通常、防犯センサー等の人感センサー4で捕捉すべき人体面積は、身長150cm×身幅30 ㎝の0.45 ㎡程度であるが、高天井の場合、肩幅50 ㎝×胸板20cm の0.1 ㎡程度に減少する。検知物体から発する遠赤外線の量により、検知信号の大きさも変化する。検知する人体面積が少なくなればなるほど、焦電素子に入る放射エネルギーが小さくなる。また、センサーから検知物体までの距離が長くなれば長くなるほど、同じく焦電素子に入る放射エネルギーが小さくなり検知が難しくなる。検知物体までの距離と、物体の放射エネルギーより変換される検知信号の関係を図で表す。検知物体までの距離が長いと、焦電素子の波形が緩やかになりはっきりと検知し辛くなる。
センサー・一体型の高天井照明については、検知する人体より得られる微弱な遠赤外線を集光レンズで適切に集め、焦電素子で発生させた電気を増幅器と処理回路で適切に信号化する必要がある。また、センサー周辺温度が上昇した際に生ずるノイズも適切に排除する必要がある。集光レンズの設計と信号化のアルゴリズムを最適化し、商品化を実現したのが、後述(6)の高天井用LED センサーライトである。
4.照明制御にパッシブセンサーを用いる際のポイント
工場や倉庫等の業務用照明の制御にパッシブセンサー設置を検討する際は、利便性だけでなく、省エネという観点が重要になる。また、パッシブセンサーの特性から、不向きな環境もある。以下に注意点をまとめる。
① 点灯率(省エネ観点)
センサー検知して照明が点灯する時間(=点灯率)により、センサーの設置効果が試算できる。例えば点灯率が50%である場合、照明の消費電力に点灯率を掛け合わせて、センサー設置後の消費電力を計算することができる。消費電力100W の照明の場合、センサー・一体型照明に置き換えることにより稼働時間帯における消費電力を50W に節電できる可能性が高い。点灯率は、検討現場に実際にセンサーを設置すると、より実態に近い試算ができる。市販のセンサーライトを設定・観察して点灯時間を実測する他、弊社で提案しているモニタリングセンサーを用いることもできる。
② 避けるべき設置環境
パッシブセンサーの特性上、以下の環境での設置は避けた方がよい。
- センサー部分が汚れ等で覆われる可能性がある場所(オイルミスト・湯気・粉塵・結露・雪等)
- センサー検知エリアに、動く物体がある場所(自動搬送機・撹拌機・風で常時揺らぐもの等)
- センサー検知エリアに、自動運転の空調機・ファクシミリ・その他熱を発生させる機器がある場所
- 冷風・温風が直接センサーのカバーに当たる場所(センサーがカバーの温度変化をとらえる可能性がある)
5.別付けパッシブセンサーとセンサー・一体型照明の比較
工場や倉庫などでは、パッシブセンサーを任意の場所に設置して照明を自動点灯・消灯させるケースと、センサー・一体型照明を用いるケースがある。両者のメリット・デメリットを以下にまとめる。
別付けセンサー | センサー一体型 | |
センサー種類 | パッシブセンサー/アクティブセンサー | パッシブセンサー |
設置場所 | 照明を制御したいエリアへの入退場箇所 (通路・ドア等)および、エリア内。 |
ライトと一体 |
制御対象 | 既存の照明 | 一体型ライト |
配線工事 | 既存照明の配線にリレー盤を介してセンサー をつなぐ必要あり。1 センサーで複数ライトの制御となることが多い。 |
ライトへの配線のみ。 |
点灯 | センサー系電源線に接続したライトが点灯。 | 個々に検知したライトが点灯。 |
消灯 | センサーを通過してから一定時間後に消灯。滞在場所とセンサーが離れている場合は、一定時間を⾧めに設定しないと、人がいるのに消灯してしまう。 | ライト側で設定された一定の時間で消灯する(短いものは30 秒)。人の滞在場所がライト付近であれば消灯しない。 |
メリット | 既存照明を生かせる。用途により、センサー種類を選べる。 | 個々に点灯・消灯するため省エネ効果が高い。配線が簡単。 |
デメリット | 1 センサーで複数ライトが点灯するほか、点灯時間を⾧く設定するため、省エネ効果が出にくい(ライトとセンサーを1 対1 で設置する場 合はこの限りではない)。 |
既存照明からの交換が必要。パッシブセンサーのため、精緻な検知エリアは作れない。 |
センサー・一体型照明は、予め検知エリアが規定されているが、別付けセンサーの場合は、検知エリアを個別に設定する必要がある。パッシブセンサーは、検知エリアを横切る方向に感度が高く、検知エリアに沿って移動する方向に人が進んだ場合、感度は鈍くなる。想定される人の移動経路(移動方向)に対し、検知エリアが直角になる位置に設置することが望ましい。
6. センサー・一体型照明の導入事例
① 高天井用センサーライト「Lumiqs」の概要
弊社の販売する高天井用センサーライト「Lumiqs」は、工場・倉庫等の高天井施設に特化した省エネ照明である。2020 年に輸入・生産が禁止される水銀灯の他、メタルハライドランプ等からLED への交換に際し、センサー・一体型による早期の投資回収や利便性を提案している。既存水銀灯等の金口を利用できるMB-400-E39 等MB シリーズの他、4 つのLED ユニットの取り付け角度が独立して変更でき、1 台で中角から広角まで配光できるHBシリーズもある。どちらのタイプも、以下をリモコンで個々のライトに設定できる。
- 待機時照度・・・0%(消灯)、20%(ほんのり点灯)
- オフディレイタイマー・・・30 秒、1 分、3 分、5 分(HB シリーズ)
- センサー入切・・・自動(入)、連続点灯(切)
- センサー感度・・・Low、Middle、High
② 導入効果
一般にLED 照明の導入効果は、削減できる消費電力量で測れるが、前述(4)の通りセンサーライトの場合、「点灯率」を照明の消費電力に乗じて算出するため、「点灯率」は重要な試算条件である。点灯率と導入効果を以下表にまとめた。
特に24 時間稼働の食品製造業では、点灯率50%以上であっても、既存照明の点灯時間が長いため、センサーが大きな削減効果を生み出している。点灯率と照明を使う時間の長さが、センサーライト導入の判断材料となる。
7.おわりに
高天井照明分野でのセンサー応用は、これまであまり注目されてこなかったが、省エ
ネへの関心の高まりから、今後需要が喚起されると予想している。今後は、人感センサ
ーだけでなく、明暗センサーによる自動点灯・消灯や、タブレット等でエリア調光でき
る機能を盛り込んで行きたいと考えている。